重力ピエロ (新潮文庫) 伊坂 幸太郎 新潮社 2006-06 by G-Tools |
前回、『ラッシュライフ』に引き続いての三作目、『重力ピエロ』。
Wikipediaの伊坂幸太郎の項目によると、
2002年の『ラッシュライフ』で評論家に注目され始め、直木賞候補になった2003年の『重力ピエロ』で一般読者に広く認知された。
とあり、そう言う意味で伊坂さんにとっては、
かなり分岐点的な位置づけを持つ作品らしい。
作品全体としては…暗い登場人物がうじうじと考えながらも、
どこかあっけらかんとしているという感じ。
重要な2つの事件の犯人を追い詰めていくという根本的な筋はあるのだけど、
どこかそういうのはまぁね、大事だけど別にどうでも良いよと言いたげな感じの、
投げやりなタッチがなんかいい。
その辺りは…ラッシュライフでもそういえばそうなんだけど。
重い境遇や状況において、それを描写していても、どこかに諦観というか、
決して軽く見るとかいい加減に扱うとかではなくて、
まぁ行こうか、というくらいの感じのノリがあって。
悩むことに悩むのではなくて、やるべきことをやるというスタイル。
なかなかそうは生きられないけどなー。
正直、登場人物それぞれに感情移入していくとキツイかなと思う。
弟の心境や、そう言う弟を持つ兄や父の心境は僕らには絶対に分からないし、
ましてやそういう心境において明るく振る舞うことや、
因縁の人物と対面してどう行動するかなんて共感できるはずもなく。
そう言う意味で、この小説は、共感するための本では全くない。
なんかねーそういうものって多いけどね。
あーあるねー。あるある。わかるわー。
それはつまりこうですね。わかります。
を共有するためのテキストというか。
それはそれで良いし好きだけど、この本に関してはそれで読むと無理があるかと。
そうではなくて、僕は彼らのことは分からんと。
でも彼らが置かれている状況やその状況の変化について、色々と感じることは出来る。
そして、結果についてそうか、そういう結論を出したのね…と。
そういう俯瞰的な箱庭的な見方で、登場人物の奇抜さや特殊性を楽しむ、
そんな小説だなぁ、と思う。