男子ハンマー投げ。

一度書いてしまったので、きちんと、結論まで書いておかなければなるまい。

アテネオリンピック男子ハンマー投げは、
ドーピング違反の嫌疑を掛けられていた金メダルのアヌシュ選手が
再検査を拒否したため、失格処分となり、代わって室伏選手が金メダルに輝いた。
僕は以前のMUTTER(→ アヌシュ選手)で、
『限りなく黒に近いが、アヌシュ選手を信じたい』
と書いた。僕は信じたかった。
しかし…彼はそれを認めることからも、ひっくり返すことからも逃げた。
ただの『ドーピング違反』というよりも、もっとずっと、重い罪を犯したと考えている。

僕の記憶にある、もっとも衝撃的なドーピング違反と言えば、
ソウルオリンピック、100メートル男子決勝で、
恐るべき記録を叩き出して金メダルを獲得したベンジョンソン。
彼は競技後の検査で違反が発覚し、メダルを剥奪され、永久追放処分になった。
最近になって復帰が認められ、いくつかの競技会に出場したりしていたが、
結局は大した成績も残せなかったようだ。

まず、前提として、ドーピングというのはばれなければいいというものではない。
競技者の健康、そして競技の公平さを維持する、最低限のラインなのだ。
だから、競技者自身、またはコーチによって、薬物を服用した場合、
それを考えた時点で既に罪であり、検査で引っかかることは自首と同義なのだ。
不注意で風邪薬を服用した…などということを除けば、
全て、確信犯であり、事故などということはあり得ない。


ドーピング違反を世界から無くしていくためには、
─一般の犯罪と同じように─2つの方法しかない。
つまり、競技者のモラルを向上させること、
そして、検査を充実させてそのような競技者を競技から排除すること。
競技者で有れば、誰もが記録を伸ばしたい、と考えているだろう。

しかし、もし検査がザルで有れば、ドーピングをしていない競技者に対して不公平を生じさせる。
(それでも室伏当たりは『関係ない、自分がどうできるかですから』とか言いそうだが)
だから、モラル向上の一方で厳しい検査、措置はかかせないのだ。
ドーピングするのは勝手だが、競技に出すわけには行かない、ということだ。
(ドーピング検査が厳しくなって以来、ハンマー投げの記録が世界記録に迫ることすらない)

アヌシュ選手は、そうした反ドーピングの活動自体を無視している。
ドーピング検査というものの、価値を、失墜させた。
それはすなわち、多くの競技者が、
『ドーピングのどこが悪いんだ?』『あいつがしていてなぜ俺は悪いのか?』
という思いを抱かざるを得ない、ということだ。

地元ハンガリーでは、未だにヒーローとして扱われ、
ハンガリーオリンピック協会も結局は彼を擁護している。
挙げ句の果てに、競技前後のサンプルが別人のモノだったのは、
オリンピック委員会のミスだ、などと言い張っている。
再検査の結果、白で有れば、問題はない、なのだから、素直に受ければいいだけのことだ。

ドーピング検査が好きな選手なんていないだろう…

試合前のもっとも集中したい時間でさえ、
求められれば、検査官の前で尿を取り、提出し、検査を受けなければならない。
だが、それはアヌシュ選手だけがやっているわけではない。
どの選手も、同じ条件で、厳しい検査を受けている。
たとえ場所が警察署だろうと…拒否していい理由にはならない。
それが競技の公平さ、ということではないのか。

彼を、アスリートだと思って、僕は信じていたが、
彼はアスリートではなかった。
己の名声が、そこまで大事なのか?
真のプライドをどこに置いているのか、アスリートとしての見識を疑う。
そのような選手は、帰ってこなくて良い。
ハンガリーでぬくぬくと老後を暮らしなさい。