Bar Nox

Bar Nox。
そいつの行きつけのBar&バイト先。
『結局ね』
さっきまでと、1年半前の話の続きを唐突に始める、
でも、一緒にここへ来た1年半前とは違っている
彼の問いかけに、俺以外の誰かも答える、
微妙に違う役柄、
少し戸惑いを帯びる声と、
話すべきか、話さないべきか迷う表情、
それを隠そうとしている表情と、
隠しきっていると思っている顔、
俺の目を忘れてるな?この1年半で
逆光の光の中でもそれくらいは見える
俺の頭の上、後ろで光るモニター
少し前のヒット映画を映してる
『結局ね』
それを繰り返す、言い出すまでは何も言わないつもり、
彼の話は結局やっぱりどこでも聞く話
話すヤツだけが違う
考え方は変えられるけど、想い方は変えられない
客が不入り気味で余るスタッフ
とぎれとぎれになる俺らの会話
あいまに飲み込む煙とカクテル『モスコミュール』


『結局さ』
別れられるんなら、別れればいいよ
分かっていた結論を口に出すしかない俺
他には、何も、言えない
好きじゃないなら別れれば?
それは、俺には出来ない、大事なんだ、結局さ
だから、言えない、
ずるいけど、しばらくこのままでもいいんじゃない?
それが嫌なら…とるべき道は1つさ
『結局…』
そうですね
変わらなかったことを示す口調に
ため息混じりの煙を吐き出す俺

じゃ、また
タクシーをおりて家までの道のりを
1人で歩き出す俺
人の気配しかない道を
そして、またどこかで逢う

『結局ね』

…。