【読書感想文】 藤島 大 / 熱狂のアルカディア


スポーツライター藤島大さんのスポーツノンフィクション短編集。
見た目はそれほど分量があるようには思えないのですけど、中身がぎっしり詰まってて読み応えがあります。

目次

第一部 偉人たちの肖像

  • 釜本邦茂「考えるライオン」
  • 吉田義人「脚光と不遇の果てに」
  • 前田智徳「もののふの恥じらい」
  • 宿沢広朗「非凡な覇気、火のごとき覚悟」
  • 山田重雄「世界に挑み続けたコーチの光と影」
  • 安田善治郎「女子ホッケーをアテネに導いた知将」
  • エンツォ・マイヨルカ「千の星、千の月、千の太陽 ― もう一つのグラン・ブルー」
  • 原進「阿修羅が駆け抜けた時代」
  • 友川カズキ「無償の放熱」

第二部 異人たちのいる風景

  • マンチェスター/イングランド「ユナイテッドの背番号7をめぐる冒険」
  • 岩手県釜石「前衛思想としての新日鐵釜石」
  • ダブリン/アイルランド「裏切りの予感に包まれて」
  • 沖縄「知られざる名将、沖縄に在り」
  • レッジョ・ディ・カラブリア/イタリア「老人と海とナカムラ」
  • 茨城県つくば・東大阪市花園「1988年冬・茗渓学園ラグビー部 新しい風の誘惑」
  • マンハッタン/ニューヨーク「酒とイラブの日々」
  • ナポリ/イタリア「1997年11月15日、不滅のアズーリ」




この中で1つ印象的な文章を上げよと問われたら……それは多分、「友川カズキ」かな。能代工業高校マネージャーにルーツをもち、バスケットボール指導者として恩師加藤を超える可能性を持ちながら、数奇な運命に左右され、シンガーソングライターとして生きることになった「友川カズキ」。

なにか解りやすいことや、印象的なことを取材を通して明らかにする…のではなくて、取材対象と同じ目線に立ち、「当時」の関係者につぶさにあたり、今とかつての姿から取材対象の少しだけ先の姿を描く藤島さんのスタイルはとっても楽しかった。


もちろんそれ以外にも、釜本さんや、今は亡き宿沢広朗さん、映画のおかげで誤解が常識と化しているエンツォ・マイヨルカさん、新日鐵釜石を育んだ環境(これは東日本大震災のおかげで一層生々しく感じられた)など、とっても読み応えのある一冊。ナカムラのいるレッジーナや、伊良部のいるニューヨークなど懐かしさを感じる場面もありで。


スポーツというのは、表に出ている部分が多い分、とっても「わかった気になる」ことが多いモノなのですけど、こうしてきちんとした取材が行われた文章と読むとそれが本当に表だけで、裏を知るともっともっと面白いと言うことがよく解ります。僕らはこうして何とかかんとかテキストに起こされた文章を読んで初めてそれを知るわけで、そうする前にその面白さを知ることが出来る筆者やスポーツ記者には正直少し嫉妬します。

いいなぁ…



そんな一冊。