【読書感想文】 星新一 / ひとにぎりの未来

ひとにぎりの未来 (新潮文庫)ひとにぎりの未来 (新潮文庫)
星 新一
新潮社 1980-05
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この作品集の一番初めのSS「コビト」が、どこかの右系ブログで取り上げられていてきになったので読んでみた。星新一は好きなんだけど読むのはもの凄い久しぶり。10年ぶりくらい。あ、そんなの「好き」って言わないか…作品が多すぎてどれから読んでいいものかよくわかんないんだよね。


「コビト」は、かいつまんで言うとサーカスで見せ物にされていたコビトを人々が哀れんで、裁判で人間と同じだけの権利を保障してあげたら、実はそのコビト族は全世界に隠れ住んでいただけで本当は全人類の何倍もいて――というお話。人権とか言いながら実際は自分の都合でものを語る社会を皮肉っているとも言えるし、そんな社会のナイーブさを指摘しているとも言えるか。

そんな「コビト」の他、全40編収録されていてどれもが秀逸な作品。1編あたり平均7Pしかないのに、なんなんだろうこの奥行き感は。40編の中で特に気になった作品は、「遠距離通勤時代」。ベッドから通称「棺桶」という名前の箱に自動的に入れられて、列車に自動的に積み込まれ、片道4時間の通勤をする「遠距離通勤時代」は、郊外がベッドタウン化し職場が首都圏に集中していく年代にぴったりなこれも少し皮肉っぽい作品なのだけど、しかしその通勤時間をいかに豊かに過ごすかを追求しているという点で、ただの揶揄に終わっていなくて凄く気持ちいい。みんなしんどいとは思ってるけど同時に仕方がないと思って長時間の通勤時間を受け入れている人たちに対する、それは仕方ないんだから受け入れた上で、もっと楽しくすごせるようにしたらいいんじゃないの?というのは、本当に良いアプローチだなぁと思う。まぁ出版から30年近く経っていて(!)そんな列車どころかそういう精神性さえ、日本人はまだ獲得できていない気がするけども。


やはり全編にわたって漂う、どこか皮肉っぽいでもどこか温かいそんな雰囲気が星新一らしく、この本を非常に気持ちの良い一冊にしていると思う。

相変わらず次何を読んだらいいのかさっぱりわからないけど、とりあえず何か手にしたものを買ってみようかな。