理想的な断食法の理論と実際(東大新報)

東京大学の学生有志によって発行されている新聞『東大新報』のコラム、
『健康あれこれ』過去ログの中に、断食に関する考察が書かれているので、転載することにする。
筆者は、評論家の門脇弘氏。

理論的な裏付けとして、非常に参考になります。

747号(1998.7.5)
健康あれこれ vol.37
理想的な断食法の理論と実際(1)
断食は効力ある療法
病気を遮断する効果も

 断食については特に医学者の間で無理解・誤解・偏見が著しいので、標題に関して真実の内容をご紹介し、各位の参考に供したい。
 重篤なる疾患に冒された患者が食欲不振に陥るということは、その場合に身体が栄養を必要としないからである。犬や猫が羅患したり大怪我をした時に食餌を与えても取らぬのは、自然が回復を急がせるために自ら断食をせしむるのである。
 それを人間は栄養が入らなければ生きられないと勘違いをし、病人を治す尊い使命を持った医者たちが「病勢に打ち勝つにはまずがっちり栄養を!」と錯覚し、食欲がなくても体力をつけようと無理に食べさせ、甚だしきは重態で意識不明となり、経口的に栄養の摂取が難しくなると、静脈注射や滋養浣腸で不要な栄養を与えようとする。
 このように生体を解せぬ本質的に間違った現代医学者の慣行により、当然助かる筈の有為の人材が死地に追いやられるのである。
 人間は疾患に冒された時、直ちに栄養を絶つ、ということができれば、生体の殺菌力は極限まで高められ、副作用が皆無で、いかなる強力な抗生物質よりも強く働いて、生体は治癒機転をとり、天下何物も恐れるものはない。先頃は香港風邪が流行してワクチンの製造が間に合わぬと伝えられていたが、ビタミンCを柿茶の形(薬剤では無効)で十二分に摂取しておれば病菌の侵入口が完全に閉ざされて羅患することはない。
 不覚に牛飲馬食が続いて抵抗力が落ちるとすぐに感染するが、この場合でも感染した初期に1?2日間の断食を断行すれば病菌が何型であれ、肺炎に移行することなく、すぐに根治できる。但し断食1日の場合は翌日は平常食の半分をよく噛んで食べ、2日以上断食をした場合には追って示す表のとおりに重湯から厳格に回復しなければならない。
 断食はあらゆる疾患に対して唯一無二の効力ある療法で、健康な時に断食を行うことが病気を未然に遮断する最良の手法である。
 なお、断食の偉効について興味ある事例を若干ご紹介すると、植物界では松・杉・檜の如く長生きをする葉緑樹は冬季に減食ないし断食の状態になることは年輪の示すとおりで、これにより、これらの樹木はいよいよ強固になって春夏に活動や増進をする活力を蓄積するのである。
 動物界に目を転ずると、昆虫の世界では変態の過程において一定期間、断食をするのがならわしで、断食により初めて変態を完成し得るのである。
 このようなことは蛙についても言えることで、オタマジャクシがいよいよ蛙に変化しようとする直前には、一定期間の断食をするものであるが、(断食により尻尾がなくなって手足が出る)人工的に多量の栄養を引き続いて取らせていると、遂に蛙にはなり得ず、いつまでもオタマジャクシの状態のまま留まっていることが実験的に証明されている。
 釈迦が断食をして解脱の域に達したことや、マホメットが「断食は宗教に入る門となり」と喝破していることは、オタマジャクシが断食の断行で蛙に飛躍することと相照応して極めて興味深い。
 穴熊は雪解けと共に長い冬眠の断食を終わり、夏から秋にかけて著しく肥満してくるが、この穴熊を捕らえて晩秋のころより温室で飼育をし、盛夏時と同様に豊かな食物を与えると、彼らはこれを喜ばずして断食を始め、過剰な栄養を免れようとする。にもかかわらず、強制的に栄養を与え、数年間、継続すると、彼らは天寿を全うせず、夭折するに至るのである。
 われわれは交際上の必要から暴飲暴食をせねばならぬこともある。かような時には、その翌日、断食をして過剰な栄養を排除するように才覚すれば、いつまでも健康を維持し、かつ増強することができるのである。
 まことに断食は単に宗教的な目的を持つだけでなく、健康の増進や不運の人生を改める開運のためにも、不可欠の秘法であることを私はここに強調したい。


749号(1998.8.5)
健康あれこれ vol.38
理想的な断食法の理論と実際(2)

回復食を的確に
断食日数+2日が理想

 断食は健康増進・開運・解脱のためにも不可欠の秘法であることをご紹介したが、殆どすべての医学者が断食に関する知識は皆無で、一般人になるとさらにひどく、7日間の断食直後に握り寿司を2人前食べた無茶な男がいる。「よく死にませんでしたね」と言うと「いけないんですか」と言ったが無知ほど怖いものはない。その男は死にこそしなかったものの爾後、体調が悪く、顔はドス黒くなり、病人となってしまった。これも正規の断食を行って上手に回復すると頑強となるが、現在は通院状態でいつ治るかも判らぬという。
 先年、某市で「断食、患者を殺す」と大きく報道されたことがある。調査すると、実情は8日間の断食を無事に終了したまではよかったが、空腹に耐えかねて、その直後に天丼とうな丼を食べたことが判った。死ぬのが当然である。大東亜戦争の末期、南方の島で戦っている飢餓状態の勇士に輸送船が着き、お粥を腹一杯食べたら、顔が腫れて死んだという実例がある。
 「断食は諸刃の名刀」で、重患をも断つが、回復食を誤ると命をも絶つ、ということをよくよく知らねばならぬ。
 高野山の修業僧は21日間の断食後には軟らかなお粥を少量食べるという。屈強な若者でもこれは無謀で、本来ならば回復食の第1日目には重湯120gを昼・夕の1日2回摂取することから厳格に回復することである。
 世間の断食道場では7日間の断食後、第1日目は重湯、2日目にはお粥、3日目からは平常食という急テンポで回復させている所があるが、理想は断食日数プラス2日目が平常食の6分を食べるというのが望ましく、回復食を厳格に行うことにより、断食実施の効果は100%期待ができるのだ。例えば、最大血圧230もある人さえ、7日間の断食(水だけは1日2リットル程度飲む)で150位には下がり、降圧剤と違って副作用は全くない。
 先年、ヨットで遭難、1カ月余漂流して奇跡的に発見され、断食状態で救出された男が収容された病院で3日目に山盛りの丼を1杯半食べ、医者も旺盛な食欲に脱帽したと新聞では報道されたが、無学・無知・無能な医者の無定見さに私は寒くなったのである。昭和天皇が不調で断食状態であられた直後に、治医はアイスクリームをさし上げ、多量の下血があって崩御に直結したことは周知の事実である。
 それゆえにこそ、1日?8日の断食(弟・門脇尚平は1日?21日)を数十回働きながら体験している私は断食の著効と安全確実な回復の方法を諸賢にご紹介申しあげたいのである。通学や通勤しながら断食を実行すれば費用もかからず、病気は根治、病根は遮断、健康増進、開運など、一石よく何鳥もの効果を期待できるが、渡辺正博士の指導で渡辺医院(中野区東中野)に入院するのも、看護婦さんたちがすべてをみてくれるから、年配者の方々には一法である。
 現代医学者の中でも、最近は絶食療法(「断食」の文字は宗教的なニュアンスがあるためか、「絶食」とか「胃腸休養法」などと呼ぶ医師もいる)に関する記事を書く人を時々見るが、いずれも的確な方法とは言えず、その効果も果してありやなしや、ましてや危険と思われるものもあり、それ故にこそ、ここに万人が実行して卓効のある確実な方法をご紹介したいのである。
 断食が有史以来、実行されてきたことは各種文献でも明らかで、キリストは40日間、荒野をさまよって断食をし、回教には戒律としての断食があり、民間療法にも数多くの断食法がある。だが、科学的に検討してみると不備な点が多く、万全なものとは言えない。私が敢えて正しい断食法をご紹介するゆえんもここに存在するのである。
 ここで現代医学では全く無視している断食はなぜ有効か、について略述しよう。断食をすると活動のエネルギーは外から取れないので貯蔵されている栄養から取らねばならぬ。
 いわば蔵払いで、筋肉や内臓の隅々より栄養を引き出し、体全体に血液がくまなく循環するので、滞留した各種の毒素も引き出される。こうして体の隅々まで大掃除ができるのである。

752号(1998.9.15)
健康あれこれ vol.39
理想的な断食法の理論と実際(3)

どんな疾患にも効果
断食で白髪も黒くなる
 断食を行うと内臓の働きをフルに活かすことができ、特に胃腸には食物が入らぬから収縮を始め、胃拡張や胃下垂はたちどころに回復する。断食をして著しく目を見張る効果の一つは、断食の断行によって宿便が腸からはずれ、腸管の異常、例えばメッケル氏の憩室などはきれいに消え、捻転など、腸管の乱れが治ることである。断食をすると腸管には栄養が入って来ないから収縮し、腸壁に永年こびりついた宿便もはがれてくる。大腸の大部分は古い糞便の停滞によって麻痺したり重なり合っているものだが、宿便が排泄されると縮小して正常に戻る。腸管の故障が治るためには多量の血液や膿が出てくることもあるが、これらの症状は断食によって腸管が正常に戻る過程で排泄するものゆえに、断食をした効果の現れとして大いに喜ぶべき現象である。女性が断食をすると一週間位でおびただしい出血のある人を見るが、これも子宮等の回復の兆候であるから少しも心配はいらない。
 もちろん、これらの変化は心身の大変化であるから疼痛や嘔吐など不快感に悩まされることがある。しかしこれもあらかじめ覚悟をしておれば順調に経過することができる。
 嘔吐は宿便の剥離が多量で、一時的な腸閉塞を起こしたものである。かような場合には金魚運動をやるか、微温湯の浣腸をするかして便通を計るとまもなく治るものである。腹痛はもとより金魚運動でよろしい。肝臓は多く肥大したり硬化しているものだが、断食で過剰な栄養や滞留した毒素が引き出されると縮小して軟化する。断食外新方式の医学で現代医学では治療の難しい肝硬変の全治した治験例が渡辺正博士には沢山ある。血液は栄養の供給が断たれるから淡くなって流動性が増し、組織の隅々まで還流して血液量も必要最低限度となるから、高血圧患者も直ちにその血圧が降下して脳出血の危険から逃れることができるのである。
 まことに断食こそは病気の発生を遮断し、健康を増進させる王者だが、実行するために日常の業務を休むようでは生存競争の熾烈な昨今、実行は不可能に近い。私の奨める断食はその点までも考慮して設計をした断食である。
 私自身の体験を申し上げると、私は長野高校2年の時、正規の断食(2・4・6・8・8日の断食)をやり遂げ、しかも帰校後には20kgの新刊雑誌を自転車に積んで夜10時過ぎまで配達したし、弟・尚平(防衛庁事務官を退官して手相研究家)は20kgの雑誌を積み、遠く松代など郡部までの配達さえもした。看護婦さんが一切世話をしてくれる渡辺正博士の医院も東中野にあるから入院するのも一法だが、意志堅固なら8日位の断食なら入院をせず働きながらでも実行ができる。人間はいかなる疾患に冒されても、どんなに心身に障害がある場合でも、すぐに断食ができればすべての場合に重態に陥ることはない。
 もしも病気となり、処置が不明の場合にも直ちに断食をさせ、生水を補給して心の平静を保たせるならば、症状は確実・急速に解消するものである。厳格に正規の断食(女性は3・5・7・7・7日間を行い、断食と断食の間に回復期間を40?60日間置くから、全行程を終了するには約1年かかる)を行うと白髪は黒くなり、10?30歳は若返り、閉経した女性もまたメンスが始まるものである。

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 (1)断食を行うに先立ち、断食経験者に具体的な手法を聞き、よく理解した上で行うか、渡辺正博士、甲田光雄博士及び山崎佳三郎氏ら断食に深い理解のある医学者の監督下で行うこと。病気が症状を現わし始めた初期に断食を行うと、2?3日で簡単に回復する。
 種々の間違った治療を行い、重態となってしまったものは、たとえ断食を忠実に行っても回復に骨が折れる。このような重病人が断食を行うと、症状が増悪したり、新たな症状が出てきたりするものだ。
 これも「症状即療法」という真理がよく理解できていて、正しい処置が施されると助かるが、驚いて断食に無理解な病院に再入院をすると、「裏門」から退院をするようなことになる。

754号(1998.10.5)
健康あれこれ vol.40
理想的な断食法の理論と実際(4)

注意事項遵守で― 特に回復食は厳密に


(1)前回にも触れたが、渡辺正・甲田光雄・石井文理諸博士及び山崎佳三郎氏ら断食に深い理解のある医学者の監督の下で行うと間違いがない。意志堅固なら自宅でもできる。
(2)断食の実施に際して、家族や近親者に10日や20日の断食で死ぬことはまずないということを十二分に理解させる必要がある。
(3)生水さえ飲んでおれば、普通人でも3週間や4週間の断食に及んでも、生命の危険はまずないということを念頭に置くこと。
(4)「ショーサーの法則」(体重の減少と死の危険の相関)で、人間は体重の4割を失った時に死ぬことを心得ておくべきである。しかし4割を失うには90日以上の断食の場合に限られる。
(5)煙草や酒は断食1週間ぐらい前から止める必要があり、寄生虫も断食実行の前に駆除しておくこと。
(6)断食に入るからということで直前に濃厚な栄養を沢山取る人がいるけれども、むしろ徐々に減らす方がよい。
   断食中はことさらに安静にする必要はなく、普段の運動を余計にやる必要もない。
 瞑眩(好転反応=生体が病気を回復させるために払う努力の一表現)が現れても、注射や薬剤は用いないこと。生水(煮沸しない水。浄水器がなくても水道水でよい)をチビチビ1日2リットル程度飲み、風浴法(裸療法=ローブリー博士考案の改良型で20秒全裸となり1分着衣。30秒全裸になり1分着衣と10秒ずつ裸体の時間を延ばし、120秒全裸となったら終了する。着衣はタオルケットが便利で、着衣時間は60秒まで進んだら1分半にし、90秒まで進んだら2分とする。1クールが27分ほどかかる)や温冷浴を励行すること。通常の入浴は絶対にいけない。金魚運動や毛管運動(後日ご紹介する)をすると、断食の効果は倍加する。断食中も1日40分程度の歩行は必要である。イルリガートル(洗浄器)による浣腸を1日1回行うこと。
 断食は水さえ飲んでおれば大丈夫だが、回復食を誤まると死ぬことが多い。1日だけの断食なら翌日は平常食の半分をよく噛んで食べればよいが、2日以上の断食後の回復食は「表」に従い厳密に行うこと。
 平常食になっても料理の濃度は薄味とし、菓子類、酒類、煙草類は遠ざけること。断食後は特に甘い物が好きになる。
 熱い物、冷たい物、油っぽい物、辛い物、硬い物は日数が経ってから取るようにする。
 断食を契機として、不要有害な朝食は止めた方がよい。
 断食をすると、断食の日数に応じて相当痩せてくるが、急激に太ろうとしてはならぬ。「表」のとおり厳格に回復することによって痩せた人は必ず太り、肥満体の人は美しく痩せる。断食後の過食は顔がむくんで腫れ、食塩の過剰は指が腫れる。
 重湯(精米湯)の作り方は、胚芽米のよく洗ったもの1合に対して水6合とする。とろ火で50分ほど煮て半分に煮詰め、ふきんでこす。初回は食塩を耳かき3杯程度にすること。
 玄米重湯の作り方は、よく洗った玄米1合に対し、水1升5合の割合でとろ火にかけ、4分の1に煮詰めてふきんでこす。芳香があってすこぶるおいしい。
 麦重湯の作り方は、よく洗った圧搾麦1合に対し、水1升3合加え、とろ火で50分ぐらい煮て2合5勺程度に煮詰める。これをふきんでこすのである。
 半粥(おまじり)、粥、野菜スープは、それぞれ従来の手法で作るが、バターなどは加えないことである。



追記
転載しようと思ったときには、拾い読みしたに過ぎなかったので、
改めてじっくりと読んでみた。
大筋で、同意できるけれども、
ここまで過大な期待をして絶食に取り組むのもどうかとは思う。
や、有害ではないということには賛成だが、断食万能説にはどうしても賛同できない。
論理の偏りを嫌う、僕の性格的なものだとは思うけれども。
それはともかく、文中で厳しく言われている、
『回復食の重要性』、これはまさしくこの通りではないかと思う。
(『回復食を誤ると死ぬことが多い』という表現は穏やかではないが)
文中、『断食日数+2日で平常食の6分』と書かれているけれども、
さすがにそれは厳密的過ぎるような気がしないでもない。
一般的には、『断食日数÷2』と言われているので、
例えば7日間の断食であれば、
最低4日間は、お粥を中心とした食事を、ということになろうか。
それもまたきついけれども。
『熱い物、冷たい物、油っぽい物、辛い物、硬い物は避ける』
というのはその通り。

門脇氏のコラムに全て忠実である必要はないと思うけれども、
絶食に関する一定の指針にはなりうるかと思う。