【読書感想文】 永江朗 / 聞き上手は一日にしてならず

聞き上手は一日にしてならず (新潮文庫)聞き上手は一日にしてならず (新潮文庫)
永江 朗
新潮社 2008-04-25
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フリーライターの永江朗さんが、
「話を聞くことを職業にしている人」10人にインタビューをし、
インタビューをするときにどんなことを考えているかを聞いてまとめた一冊。

あくまで職業的な心構えや技術の話が中心ではあるけれども、
全体を通して共通していることは、相手に喋らせるとか、上手く引き出すとかいう、
自分本位の(つまり自分の技術だけで解決できる種類の)話ではなくて、
それが職業的なものであっても、ベースには1対1のコミュニケーションがあるということかな。


永江さんがインタビューされた人たちは以下の10人。
(一部敬称略)

  • 黒柳徹子
  • 田原総一朗
  • ジョン・カビラ
  • 糸井重里
  • 小松成美
  • 吉田豪
  • 河合隼雄
  • 石山修武
  • 松永真理
  • 刑事

どの人もそれぞれに個性があって面白い。
特に、田原総一朗さんと小松成美さん、河合隼雄先生の話が、
個人的には色々と感じることが多かったですね。

少し、文章の中から抜き出してみたいと思います。



黒柳徹子
昔、セリフが多い役が回ってくることが多かったんです。セリフ覚えがいい方で。生ですからね。それでおしゃべりだと思われたんですね。事実おしゃべりでなくもないんですが。そうするとおしゃべりだと決めつけて書く記事が本当に多いんです。残念な思いをしたこともあります。悲しい思いもしました。だから自分は、こういうことは絶対にするまいと思って。事前に大量の資料を読んでも、けっしてそれにとらわれるまい、マスコミが作ったその人の形は信じるまい。その人が私に会って、私が決めるしかない。(P.21)

僕は別にマスコミに取り上げられるような人間ではありませんが、
でも子供の頃、誤解されがちな人間だった(あんまり喋らなかったし)ので、
誤解されることに人より少しセンシティブかもしれません。
まーWeb上ではある程度は諦めてますけれども。

同時に、黒柳さんが言われているようなことも考えています。
それがどんな相手であったとしても、
初めて会うときや初めて個人的に話をするときなどには、
なるべくそれまで持っていた様々なステレオタイプは忘れて話をする、と。
特に人の噂や、外見の様子なんかで人を判断するとろくなことにならないので…



田原総一朗
本番の日、僕は八時頃に全日空ホテルに入ります。八時から十一時半くらいまでかけて、自分で綿密な構成を作ります。レポート用紙が二十枚ぐらいになります。でもそれは、本番には持っていきません。頭の中に入っている。頭の中に入っていますが、その構成通りにいったらつまらないわけです。それがいかに打ち砕かれていくかが面白い。いささか自虐的なんだけど、ゲストが自分の構成を砕いてくれるのが面白い。(P.44)
結局、こちらの本音を言うことが、相手に信頼されることだと思う。相手が言ったことを、納得してもいないのに納得したような返事をするのは、相手に対する不誠実だと思う。だから本音を引き出して、最後のところでやっつけることはありません。どんどん「違うだろう」と言っていって、相手が本音を言ったら、僕は「そうですよね」と言いますよ。(P.46)

日本人の特性なのかもしれませんが、
自分の意見を自分の意見通りにきちんと言える人ってそう多くないですよね。
「彼は率直な物言いをする」と周りに言われてるような人でも、
できれば本質的なことや、自分の感情については言及したくなかったりします。

世間話だったらそれで構わないんですけど、
きちんとした話をするときにはそれは時間が掛かるだけで、あんまりな感じ。
僕はそういう場合、敢えて決めつけて喋ったり、部分を限定して強く否定したりして、
その人と会話をします。

で、よくわざわざ怒らせてるように見えるみたいだけど、
(僕も説明が面倒なのでそういっちゃうときがる)
まぁそういうことじゃないんでね。
僕が考えている本質的な部分について相手がどう考えているのかを聞くために、
それについて考えてくれよ、それ以外は些末だろ?と言ってるだけで。

僕が非難するような目で見られるときがあるってのは、
多分最後の一言が足りないんだろうなぁと思いました。
僕はあなたのその意見を聞いて、納得するためにここまでの時間を費やしたんだって言う。
最後のところでやっつけるのは卑怯ですよね、確かに。

どこか、言い勝った方が正しいっていう気持ちが僕の中にあるみたい。
そんなことのために時間割いてるはずじゃないのになぁ。



ジョン・カビラ
相手が毎回違うので、ルールは決められない。逆に、自分の中でルールを作っちゃうと、そっちの方が大切になっちゃうことがあると思う。わかりやすく簡潔に、相手も気持ちよくなるように、というのが最低限のルールです。(P.72)

「相手が毎回違う」というのは、当たり前のことだけど結構忘れがちですよね。
どうしても何らかの枠組みを作って、それで省エネ処理してしまいがち。
「セブンイレブンのバイト」とか「日雇い労働者」とか「新成人」とか。

ざっくりした話を友達としてるんならそれでいいんだけど、
相手と1対1で話をするときはね…そりゃダメですよね。
意見を聞くより、自分の意見の追認を求めるだけで時間が過ぎちゃう。

それって相手必要だったのっていう話にもなりますしね。



糸井重里
でもなんかね、減点法はよくないですよ。これは信念に近いな。自分も減点法で発想しているときは調子が悪いときですね。会社が上手くいっていないとかね。チームプレイがすかっといっていないときは、ミスも出るし、みんな楽しくないんですよ。そんなときには、それを矯正するような話をついしたくなるんです。たとえば、「おまえ、五分前にそれを言えばよかったじゃないか」とか。その通りなんだけど、それがやりにくいからできないわけで。どんどん深みにはまっちゃう。小言とか注意って、薬みたいなところがあって、抗生物質を一つ飲んだら胃の薬も飲まなきゃみたいになって、どんどん薬漬けになっていく。それよりは「まあ、いいじゃない」とやっていったほうが、いつの間にか快方に向かっているわけです。(P.109-110)

減点法…。

確かに、一回ダメ出すとずっとダメ出し続けなくちゃならなくなるってのはありますね…
そりゃ注意も必要なんだけど、過度の使用は厳禁というか。

怒っちゃう方がずっと簡単で、
それをせずに上手く誘導していく方がよっぽどテクニカルで、
僕には減点法以外で事態を快方に向かわせる方法がパッとは思いつかないんだけど…
でも、別段派手なけんかを繰り返すわけでもないのに気づくと女の子が主導権握ってる、
そんなカップルとか夫婦とか見ると、可能なんだなーとも思うなぁ。

「まぁ、いいじゃない」ってなかなか言えないです。



小松成美
想定する質問は、A4のノートが一冊になるぐらい。最低一ヶ月ほど準備して、インタビューする方のバイオグラフィーや現在の状況、またプライベートの環境であるとか精神状態であるとか、そういうものも考慮して、会話のシミュレーションをするんですね。具体的に想定問答を書き出すときもあるし、頭の中に収めるときもあります。でも、挨拶をしてインタビューを開始する瞬間には、すべて消去して頭の中を真っ白にするんです。
── 白紙の状態にするんですか。
ええ。真っ白にして、自分が何を聞くのかは、声を発する瞬間までは考えない。
── 準備した質問を一旦捨ててしまうんですか。
捨てます、全部。その瞬間は真っ白で、始めてみるとシミュレーションどおりにいくことはまずありませんね。(P.124-125)

小松成美さんはNumberでよくお名前を見るんだけど、
インタビューのためにA4ノート一冊分の準備をするってのがまず衝撃的だった。
多分、世の中にあふれてるインタビュー記事ってそこまでやらないよなぁ…
そんなに時間取らずにあらかじめ詳しい人にインタビューを依頼しちゃうような。
しかも、それを一旦すべて忘れちゃう!

この辺、スポーツのトレーニングにも似てるなぁとちょっと思いました。
野球選手がなぜ1日何百回も素振りをするかといえば、要するにそういうことで。
振るときは、他の選手のスイングや投手の球筋、調子いいときの自分のスタイル、
コーチのアドバイス、そんな色んなことを考えてフォームを作っていくんだろうけど、
でもそういうことは打席にたったらすべて忘れて、感覚をそのまま出すっていう。
いちいち考えて何かしてたら、判断が遅れるし狂うもんな。

小松さんにとっては、A4ノートを作ることが、
インタビュイーのイメージを頭の中に作り上げる作業ってことなんでしょう。
で、イメージさえできてしまえば、そのために仕入れた色んなことはひとまず要らない、と…。
目の前の人より、情報や知識を重視してしまったら、それは本末転倒ですもんね。



吉田豪
僕のテーマは常に部外者ですから。へんにTPOをわきまえていると、利用されやすいじゃないですか。こいつは話はわかるけどダメなやつだろうという電波を出しておく。面倒くさいことに巻き込まれそうになると、バカなふりをする。「全然わかんないんですよ、そういうの」って。(P.167)

実際にバカかどうはともかくとして、
僕はバカなふりってのがなかなかできないんですよね。
多分実際には、バカでも天才でもなく平凡な頭脳だと思うんですけど、
なんか下に見られたくないみたいな感情に突き動かされて、意地になったりとか。

そこで引いちゃえばいいのにねぇ。。



河合隼雄
── 心理療法で、クライアント(患者)の話を聞くことにはどんな意味がありますか。
聞くことに始まって聞くことに終わる、と言ってもいいでしょうね。相撲で言うでしょう?「押さば押せ、引かば押せ」って。それを真似してカウンセラーは、「クライアントが話したら聞け、黙っていても聞け」。聞かないとだめですね。(P.173)

河合先生の話はずいぶんと面白かったです。抜き出すところが難しいくらい。

ただ、黙っていても聞け、というのは含蓄のある言葉だなぁと思いました。
聞くってのは言葉を耳に入れるってだけじゃないんだっていう。
その人が発信している様々な情報をとにかく聞いていけ、という話なんだろうね。

日常生活でそれを実践する必要はないかもしれないけど、
なぜか話しやすい人、人から色んな情報を得るのが得意な人ってのはいて、
それはその人が有名だから集まるとかそんなことでは全くなくて、
ただ何となく話をしていると落ち着くから、みたいな。
そういうのも一種のカウンセリングなのかな。


あと、カウンセラーも他人に聞いてもらいたい、ってのには、
そりゃそうだよな、と思いました。実際にそういう仕組みがあるんですね。
何千人っていうクライアントの話を聞いてるんだもんなぁ…



石山修武
最終的には、建築というのは趣味が階層性を持っているということにだんだん気がつきました。いわゆる上品な趣味を持っていてお金を持っていないという人はいるんだよね。趣味の階層性は厳然としてあるような気がします。その自分の趣味から自由でいられる人ってのはそんなにいない。(P.208)
このあいだもネイティブアメリカンみたいなおばちゃんが来て、言いたい放題言うんだよね。「野原みたいな洞窟みたいなとんでもない家をつくってくれ」って。聞いていると野蛮で、でもこれは面白いかなと思ったけど、でも本当にお金を持っていなかったね。そういう人と会っていると面白いんだよね。こっちもだんだん練れてきちゃって、いろんなものが見えてきちゃうじゃないですか。いやな言い方なんだけど。六十になると、見えてくるんですよ。それを外してくれる人に会うと、面白いんだよね、やっぱり。だからデザイナーがクライアントをデフォルメするとか騙すっていうんじゃなくて、「このおばちゃんに騙されてみようか」なんていう慈悲の気持ち(笑)、そのへんがフッと出てくることがありますね。自分よりとてつもないことを考えている人がいるようになったのが最近だと思いますね。(P.210-211)

「自分はどうやらずいぶんと面白い奴らしい」という気づきと、
「周りにはずいぶんと面白い奴らがいるらしい」という気づきってのは、
確かに別々にやってくるもんだよなぁ…と思いました。

子供の頃は、自分は地味でつまらん奴だと思っていましたが、
ある時意外にそうでもないってことに気づきました。
別にアイドル的な何かになるような人間ではないけど、
結構「まともじゃない人間」で、面白いことも考えつくなーと。

でもそのときは、あくまで自分がそうだってだけの話で、
身の回りに色んな人がいるってことにまでは思いが至らずに結構空回りしてたりとか。

んで、よくよく周りを見てみると、面白い奴ってのはいっぱいいて。
スラムダンクの魚住じゃないけど別に自分が常に主役じゃなくていいんで、
周りの色んなことにのっていくと自分で考えつくより驚けるってこともあるな、と。
まぁ状況によってはそれを許容できないときもありますけど、
喜ぶにせよ怒るにせよそれは、感動すべき事柄だなぁとか。



松永真理
相手が忙しい立場の人たちに対しては、時間についての配慮をしていました。私は無駄話が好きなんですよね。テーマの外から入っていって、だんだん核心に迫っていくようなアプローチが好きなんです。でも相手が忙しい立場の人たちだと、できるだけ早く核心に入った方が、かえって相手が落ち着く。(P.234)
── リクルート流ブレストのとき、松永さんは発言することが多いですか、それとも聞いていることが多いですか。
私は両方多い。聞くこともすごく好きですね。やっぱり私は聞くことで自分の脳が動き出すので、聞いてからしゃべり出すことが多いですね。
── そのとき、熱の渦から引いて観察することはありますか。それとも話の渦の中にいますか。
渦の中にいた方が相手も警戒しませんね。一歩引いていて、「この人、目が笑っていないな」とわかれば、言葉にブレーキがかかってきますよね。(P.240)

相手に合わせてアプローチを変える…というのをあんまりしないかも、と思いました。
僕の場合、誰と喋っても大体回りくどい。
誤解されたくないって言うコンプレックスに似た感情があるからだと思いますが。
でもそれも、ある程度諦めて接していいかもなーとか。



刑事
── 取調室に入った瞬間に、「こいつはやったな」とか「やってないな」とか、あるいは「これはすぐ自白する」とか「これはてこずりそうだ」とか、わかりますか。
逮捕状を取って逮捕したのはホシですから。
── ああ、なるほど。「やってないかもしれない」と思いながら逮捕令状を取ることはあり得ない。
(笑)それはそうですよ。任意で呼び出したなら、あり得ますけどね。逮捕した者についてはホシですよ。(P.254)
先輩刑事が言うのは、「雑学をやれ。なんでもいいから浅くおぼえなさい」と。売店に行くと本があるから、さつきの本だとか釣りの本だとかゴルフの本だとか、あるいはトランプの本だとか、そういうのを買って、さつきの育て方でも釣りのしかたでも勉強しろと。それが地取り捜査で役に立つんですよ。(P.270)

インタビューと全然関係ないけど、
「逮捕したんだからホシです」ってのはそりゃそーだと思いました。
逮捕した人間を信じる/信じないとかじゃなくて、やったと思ってるから逮捕してるんだもんね。
そこで、やるもやらないもないよな。
「逆転裁判」の検事の仕事みたいなものか。

雑学については…要らない情報を詰め込むのはあんまり好きじゃないんだけど、
でも、人と話すときに話題は重要だよね、ってのは思う。
元来がアンテナ範囲が広い人間なので、無理に広げなくたって色んなことに興味があるんだけど、
中には浅い知識でしか持ってなくて、後は相手に喋らせて知るみたいなのはよくあります。

さつきの育て方しか知らなくても、そこから梅の接ぎ木の話が聞けるとかね。
釣りで言うと撒き餌みたいな感じですけど、
そういう感じのことは必要かなぁと思います。

ああ、知ったかぶっちゃダメですけどね。



あとがき
ノートを作りながら、質問項目を考えてます。取材、インタビューというのは、結局のところ、いかにいい質問をするかにかかっています。質問には前もって準備できるものと、その場で思いつくものとがありますが、その場で思いつく質問も、何もないところから突然生まれるわけではなくて、やっぱり周到な準備があってこそできるもの。

小松さんの話に重なってきますね。

「閃き」とか「直感」ってよく使いますけど、やっぱり元の何かがないと出てきませんよね。
それは、「サバイバル登山」の服部文祥さんも言ってましたが。
閃く資質ってのはもちろんあると思いますが、
それは真似したところで真似できるものでもないので…
それより、その人が普段何を考えてどんな経験をしているかに目を向けた方が、面白いかもしれません。


僕はインタビュアーではないから、誰かにインタビューするってことはないけれど、
一度そういう想定で準備をしてみようかなぁ。
相手は誰でも良くて、親でも兄弟でも恋人でも友人でも、行きつけのコンビニの店長でも。

A4ノート埋めるのは大変だろうなぁ…
小松さんはそんなに何を書いてはるんだろう?