「名将」にも種類がある

Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2011年 3/10号 [雑誌]Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2011年 3/10号 [雑誌]
文藝春秋 2011-02-24
売り上げランキング :
Amazonで詳しく見る
by G-Tools


Numberは各ライターの方針が統一されているようでされていないので、あんまり1冊を1冊と捉えても仕方がないんだけど、つらつら眺めていて、「名将」と紹介されているリーダーは例えば次のような種類分けが出来るなと思った。

  • 己の理念がたまたまその時のチームに合致しただけの人。一発屋。
  • チームを成功する組織に変える人。対象によってコミュニケーション方法を変える人が多い。

僕が最初にこれを感じたのは、渡辺久信監督率いる西武ライオンズが優勝し、その理念を著書として出版した2008年末のこと。同書を読んだ感想は率直に言って、正解かも知れないし正解ではないかも知れない程度でした。「寛容力」による統率を良しとする選手もいれば良しとしない選手もいるわけで全てが同じではないし、そもそも「こうやってコミュニケーションを取ればチームを勝利に導ける!」なんていう大法則などあるわけない(全チームが優勝することはない)し、たかだか1年成功しただけで持ち上げるのはあほくさいなぁと。渡辺監督が悪いわけでは全然無いのだけど、監督が優秀なのか西武というチームが優秀なのかは微妙なところだし、有り難がって本を買ってる人はみんなダメな人間だろうなぁと思ってました。



そういう意味では確かに河野さんの言われるとおり、「コミュニケーション・バブル」かも。

最近は「コミュニケーション」とつければなんでも注目されちゃうみたいで『Number』までコミュニケーション力の特集。どうなってんだろうね。

ザッケローニとか落合博満、星野仙一、オシムといった面々にインタビューした記事がいっぱい載ってる。星野仙一のどこを指してコミュニケーション力が高いと言ってるのかわからないけど、NHKの解説者になれたというあたりに発揮されたのかな。
オシムにしても、コミュニケーション力が高いというよりは、セルフプロデュース力が高いという感じだし、「名言」と「コミュニケーション力」がごっちゃになってる感じがする。
 

ただ僕の感想はそれほど批判的ではなくて、こうやってNumberがバブルに乗ったおかげで結果として
その濃淡というか深浅というか、そういう良し悪しの違いが見えたなと。
並べることで、先に挙げた2つのタイプの差がくっきりしている気がします。
(たまたまだとは思いますけどね)


特にその違いを感じたのは、競泳の平井伯昌コーチと、フィギュアスケートの山田満知子コーチのお二人。

お二人とももちろん実績は十分にあり、また今現在も最前線におられる方なのだけど、このお二人に共通していたことは、コミュニケーションとは相手に合わせて行うことだ、ということ。目指す結果は明確だけれどもそこに至る過程はその選手によっていろいろで、コーチの役割はそれを見極めて適切なアドバイスを送ること。野村克也監督なんかもそうだろうし、落合監督のテキストでもそんな描写がありました。山田コーチって見た感じ凄いスパルタ感じに見えてちょっと怖いと思っていたんですけど、でも実際は「スケートを楽しくやって貰うことを第一に」「一人前になるまでが仕事で後は次の人に引き継ぐ」なんていうところに、優しさというかある種、凄みみたいなのを感じました。ないのね、名誉欲とか自己顕示欲とか。有名選手一人育てたら、その選手に乗っかって一生食って食って言う人もいるんだけどねぇ…本当に好きなんだなぁと。フィギュアスケートが。


結局の所「コミュニケーションを上手く取るにはどうしたらいいか?」といえば、「手を抜くな」ってことですよ。

様々なシチュエーションで実績を残してきた人と、1人有名な選手を育てた人とを一緒くたにして「名将」と語っている「拙い」企画だから余計にそのことが解ります。本誌で持ち上げられた人の1/2くらいは、ここがキャリアのピークでしょう。プロ野球の監督を考えてもリーグ優勝や日本一でちやほやされたけど結局実績はそれだけという人はたくさんいます。優勝した年は他に類を見ない卓越した指導力だと見られていたけど、少し状況が変わったら案外脆くて、ああはまっただけだったのね的な。

でももう半分はそうじゃない。相手に合わせてコミュニケーションを取ると語るタイプの人には、「自分の考えがチームにフィットしなくなる」というタイミングがないんですよね。むしろ常にフィットはしない。常に最適解を探している。このデータの中日・落合監督が解りやすいんですけども、彼は年度ごとにそのチームにあった適切な戦術を選択し、結果、素晴らしい成績を残し続けているわけです。名将ってのはそういうことだと思うんですよね。

監督の指向~Part1 – セイバーメトリクス 野球データ分析コラム|SMRベースボールLab


んだから、様々なコミュニケーション啓発本があり、そういうのを読むのも大事だとは思いますけれども、まず自分の家族とか、自分の1人分外側の人とか、そういう人たちのことを見るところから始めていったらどうかと。そこんとこの手を抜いて、誰かの理論をもって全てを制圧しようとする雑さ加減が、上手く行かない理由じゃないのかなと思っています。ええ。