ジャニーズと吉本興業の違い

きっかけはこのあたり。

日本最大級の芸能事務所を2つ答えろと問われれば、みんな「吉本興業とジャニーズ」と答えるだろう。どちらも日本のコンテンツ産業の雄である。しかし、同じコンテンツホルダーでも、大きな違いがある。その違いは、今後、さらに大きな差異になっていく予感がする
 


言いたいことはつまりこういうことだと思う。

  • ジャニーズ事務所と吉本興業、どちらも多くのマネージメント契約を持っているけれども、ジャニーズ事務所がその肖像権の利用について厳しく制限しているのに対して、吉本興業は比較的制限は緩く、結果としてマーケティングを成功させている。
  • ジャニーズのような肖像権を厳しく制限する姿勢は、そのうち破綻するのではないか(メンバー登録すると読める2ページ以降で記述されている)


ただ肖像権、著作権とその管理について語るのであれば、
この対比は正しいかもしれないけれども、著作権ビジネスについて考えるのであれば、
同じ著作権であっても両者の持つ権利が利益を生み出す構造の違いについて書かないと、
片手落ちというか残念じゃないだろうか。


吉本興業の論理については、まさにそれが正しいんだろうなぁと思う。

吉本興業と言うところは、ジャニーズを初めとしたタレント事務所のように、
才能ある人間を発掘して育てて売り込むという事務所とは少し違う。
もの凄く多くの人間と契約しておき、初めはそれぞれに平等な機会を与えて、
その中から頭角をあらわしたものだけをピックアップし、売り込んで利益を得るわけだ。
(もしかして全体の2割が利益の8割を生んでいる…のかな?)

結局の所、頭角をいかにあらわすかについては手段はあんまり問われていなくて、
とにかく名が知られればOK、なぜならそこからテレビ局に売り込むことで利益が生まれるわけで。
仮に肖像権を著しく侵害されても、それほど財布は傷まない。
二次利用に寛容だとかいうのは、まぁなんというかオマケって言うかポーズかなぁと思う。
利益に関する前提無しで、あれこれ言える経営者なんかいない。


じゃあ、ジャニーズの方はどうか?っていうと、確かに吉本興業と同じような部分はあって、
「今が旬」なタレントが二次利用によって作られる…というところはあるかもしれない。
でもなんていうか、そのファン構造から考えると、なんか儲け方が違うんだよね。

多くのタレントを抱えて、ピックアップして…という要素は同じようにあるにしても、
どちらかというと選んだ人間のデビューからスターまでの道のりまで身銭切っているというか。
例えば嵐の時とかもそうだったけど予算を掛けて良いCDを作って、
メジャーレーベルからリリースして、タイアップでテレビ番組に出して、
ある程度人気が高まったらコンサートやって、DVD売って…っていう。

吉本興業に金を払ってるのがテレビ局だとしたら、ジャニーズに金を払ってるのはファンであって、
芸人をテレビ局に売っている吉本興業に対して、著作物をファンに売っているのがジャニーズであり。
その利益構造において、著作物に依存する割合が明らかにジャニーズの方が高い。
そんな中で著作物の制限を緩くしてしまったら、それはすなわち首を絞めるようなもんであって、
単純な二次利用やWebへのスタンスの違いと言うよりも両者のビジネスモデルの違いが、
こうした著作権管理のあり方の違いを生んでいるんだろうと思う。

それに対する言及無しで、吉本興業の取り組みの方が上と書いてしまうのは、
ちょっとアンフェアかなと思う。



じゃあ、ジャニーズもビジネスモデルそのものを切り替えていけばいいんじゃね?と思うけど、
考えてみればそんなに簡単なことでもないことにすぐ気づく。
なんでって、儲かるまでにジャニーズが投資する額が、吉本興業に比べて多すぎる。
ただ名が売れればいいわけではなくて、
そのキャラクターから何から、売れ方そのものをプロデュースしてるから。

そのことがジャニーズのタレントの質の維持に役立ち、
現在の地位をつかむに至ったと思うのだけど、
逆に言えば売れてるメンバーをおいそれとは増やせないし。

その上、人気が落ちれば次の人間を出す吉本興業とは違って、
仮にタレントが多少売れなくなったとしても、継続的に投資し続けなければならないわけで、
不良債権化してしまう可能性だってある。
根本的に、やってるビジネスが違うんだろうと思う。


ジャニーズ的なビジネス…人物に投資して、それが売れたら著作物で回収する、
そういうビジネスは、別にジャニーズだけの話ではなくてタレント事務所全般のもの。
感じとしては、アニメ制作会社とかにも似てるかも。

吉本興業もそういうことをやってはいるけれども、どうも見てるとそういう感じじゃない。
全く無名の芸人とかもの凄いたくさんいる、その彼らのDVDを売って儲けてるわけじゃなく、
彼らに支払う給料は彼らが仕事をつかんだら発生するわけで…
我々が売るべきコンテンツはテレビ番組ではなく芸人そのものである、
そういう考え方があってこそ成り立つ、ある種特殊なビジネスなんじゃないだろうか。

それ、既存のタレント事務所にやれっていっても無理でしょ。正直ね。
常識的に考えれば、売れるまでの期間は投資なわけで、
それを見極めることで事務所の腕の良い悪いが左右されてきたわけで。

その半丁博打みたいなシステムを止めちゃって、
投資額を芸人個人に負担させるようなシステムを作り上げたことが、
吉本興業が凄い理由であり、著作物に拘らなくて済む理由なんじゃないのかな。

そういう意味で、この件について考えたときにジャニーズが取るべき方策は、
「吉本興業のように投資を極力減らして利益を生み出せるシステムを作り上げる」か、
「著作物の売り上げを守る」かどちらかしかなく、
その点で、ネットだとか二次利用だとかが入る隙はないんじゃないかな。



それにしても…吉本興業が今のような収益構造を打ち立てられたのは、
もちろんそのシステムを作るために投資した、投資しているからであって、
それは要するにNSCの設立であったり、劇場の整備であったり、成功例の提示であったり、
各芸人との契約交渉であったりするわけで、素直にすげーと思う。


現在の各タレント事務所が時代遅れに見えてしまうことの原因は、
結局の所ネットなどの影響で著作物の売り上げが落ちたという背景があるからなわけで、
そいつはこの先どれだけ行っても多分戻らないだろうなぁと思う。
出来れば吉本的でもない、もっと上手い利益の上げ方を考えたいところだけど、なかなかね…

一方で吉本興業は、各媒体があってこそ成り立っている商売なわけで、
もし仮にテレビ局の予算が半分になったり、チャンネル数が半分になったりしたら、
大打撃だろうと思うんだよね。現在のテレビ局の財政状況だとあながちあり得なくもないって言うか。
そのときに、吉本興業がどういう手にでるか、個人的にもの凄く興味があるな。
次に吉本興業に金払うことになるのは、どんな企業、ビジネスなんだろうね?



追記

収益構造云々については、資料に基づいているわけではないので実際には違うかも。
特にジャニーズについては決算情報が一切無い(非上場だし)のでわかりませんね。

吉本についてはこちらの決算資料に詳しい内訳が載っています。

よしもとシーオージェーピー – IR情報
2009年3月期第2四半期決算説明会資料

それによると、番組制作やテレビ出演に関する売り上げが117億円(08/4-9)。
イベントと劇場の売り上げ合計が40億円、CD、DVDの売り上げが20億円となっています。
んー…やはり、所属タレント使って番組を制作して利益を得るのがメイン、ってのは、
かなり当たってるのかなーと。

もちろん、吉本興業としては、「もっとDVDで売り上げ作れるはず」と思っていて、
別にそれを無視してるというわけではないでしょうが、
結果としてこういうビジネスモデルでやってるよねという感じです。


ただまぁざっくり見た感じだと、例えばDVDを売ることも大事だと書かれてはいるけど、
実際にアピールしたいことは、様々なイベントを企画・開催したり、
新たな方向性で劇場を設けたり、各サービスと提携したりといった部分で、
何か(例えばテレビ局)に依存しない収益の確立に、
積極的に動いているのが見えて、すごく興味深いですね。

もちろんこれだけで、テレビが無くなっても良いことにはならないと思いますが、
時代に沿った経営ってのはこういうことを言うんだろうなぁとちょっと思いました。