先日、レコード小売りの最大手、CiscoRecords(シスコ・インターナショナル)が事実上倒産し、
昨年末の実店舗閉店に引き続き、残されたWEB通販も閉店ということになりました。

「シスコ」レコード自己破産申請(産経新聞) - Yahoo!ニュース
民間調査機関の帝国データバンク千葉支店によると、東京都渋谷区などで「シスコ」レコード店を展開していたレコード輸入販売、シスコインターナショナル(資本金5000万円、船橋市西浦、飯島均社長)と子会社のサウンドスケープ(同1000万円、同、和田仁社長)が10月末で事業を停止し、自己破産申請の準備に入った。負債総額は計約11億円。


このニュースに関連して、WEB上では様々な感想が書かれており、
その多くは、『レコード終わったな』というものなんだけれども、
んーなんだかこのタイミングでそれ書くのはちょっと違うかも?とも思う。

以下、聞きかじりの情報を中心に書くので、これが事実であると言うことは保証できないのだけども、
文化的な視点および、ビジネス的な観点でのレコード小売業界の現状について見てみようかと。

まず、昨年末の実店舗閉店について。


このことはレコード好きの人間のみならず、音楽業界の様々な人たちに衝撃を与え、
広い範囲でエキセントリックなリアクションが見られたのだけど、
基本的に抜け落ちている重要な情報としては「各小売店舗は黒字だった」という事実。

少なくとも旗艦店である渋谷店や、大阪の店舗に関しては、
それ単体で利益が出せる程度の売り上げはあった。

そういう意味で実店舗の閉店というのは、
その経済事情による本当に営利的な判断(要するに人件費や固定費の削減)であって、
売り上げ自体が赤字にまみれたという店舗自体の切迫した事情によるものではなく。
まぁであるからこそ、音楽好きだけでなくて業界にも衝撃的だったのだけど、
結局のところ、それが示唆していることは、
黒字の店舗ですら抱えられないほど会社全体の収益構造が悪化していたということ。
はっきり言えば…経営がまずかったとしか言いようがない。
(何をどうすればそんなことになるのかよくわからんけど)

一説に依れば、多額の融資を背景にした銀行の意向が働いたのではと言われているが、
それについては聞きかじりであることを考慮しても何の根拠もないので、
詳しく述べるのは止めておく。




次に今回の廃業について。


「レコード」という文化は古くからあっていずれ死にゆく文化である、
そのことには間違いがないのだけど、過去から右肩下がりで死につつあるかというとそうでもなくて、
90年代から2000年初頭にかけてレコードがファッション的に捉えられて、
当時の若者に広く買われるという時期があった。
俗に言うレコード・バブル(CDを中心とした音楽産業に対するバブルとは意味合いが違う)で、
その頃はどこのレコード小売りも右肩上がりの業績であったし、
そんな中で売り上げを伸ばした店舗の1つが件のシスコであったように思う。

しかしファッション的なバブルなんぞいつまでも続くわけもなくて、
そうした志向が下火になると同時に、
音楽のダウンロードサービスや動画共有サービスなども始まって、
DJの何割かもCDやPCによるDJプレイに移行していき、
レコードは元通り好きな人のために限られた数を売るという業態に戻っていく。
(あー2001年以降のユーロ/ポンドの高騰も関係あるかもね)

店舗によってはWEB通販を展開するのはもちろんのこと、
異業種で強力な資金を獲得したり、専門性を高めて収益構造を改善したり、
販路をモールに求めたり、積極的なコストダウンを計ったりして、
何とか業態を保っていた(現在まで続く)のだけど、
逆にバブルの気分のままでそうした変化に対応できなかった小売り業者は、
次々と倒れていった。

シスコは、WEBに力を入れるようになってあっという間にシェアを伸ばして
大成功していたけど、基本的な部分においては、
バブル時代の何かを引きずっていたように思える。



確かに…仕入れを抑えたり店舗を縮小したりすることは出来ても、
商品をセレクトする人間を人員整理することは、なかなか難しい。
特にレコードそのもの以上にジャンル毎に専門性が高いので、
「ジャンル担当をリストラ→取り扱いが狭まること→集客減少・売上高減少」
そういう流れが容易に見える。コストの安い、代わりの人間がすぐに見つかるわけでもないので。

単に試聴を取ってアップするだけとか、梱包して発送するだけとか、
そういうスタッフの代わりはいても、もっとも多くの人件費のかかるであろう、
貢献度の高いコアなスタッフはなかなか切りづらい。
その辺の葛藤がシスコにもあったことは想像に難くない。


今現在生き残っている会社はどこも楽ではないだろうけれども、
前述のような努力をしてきている結果、
今すぐどうこうなるレベル(利子が払えないとかね)ではないし、
特に個人/少人数で経営しているレコード店は案外安定していたりする。

この対比から、シスコがWEBで圧倒的なシェアを持っていた事実と、
負債11億円という要素を絡めつつ、シスコ廃業の件について単独で考えるならば、
融資?実店舗閉店?廃業というこの流れは、明らかな経営ミスであろうと思うし、
そもそもコストを減らすのであれば融資を受ける時点で既にすませておくべき案件ではないか?
貸した銀行も銀行じゃないかという気もする。

それで結果的に、「レコード」に隣接する人たちに対して、
レコードという文化が既に終わった(実際にはまだ終わっている課程なのに)と感じさせた、
その罪はもの凄く大きい。残念にもほどがある。
レコード小売業が本当に終わっていて、どこもかしこも潰れるってんならともかく、
他の店舗は何とか頑張ってるって言う現状(少なくとも新譜小売り大手は)で、
業界トップが先にギブアップするとか…あり得ない。




もう1つ、僕ら日本人がレコード終わったなと思う理由の1つは、
日本国内で日本向けにリリースされるレコードが圧倒的に少ないと言うこと。


適当にググって適当なレコード小売りサイトに行ってもらえばわかるけど、
結局レコード小売りってのは輸入産業で、売ってるアイテムの殆どは海外のもの。
だから、多くの人にとっては端から身近になんか無いし、
実は一般の人の体感としての「レコード」と「レコード小売り」は、
無関係ではないにせよ完全にリンクしてるとは言い難い。
むしろリンクしてるんだったら、とっくに小売店はゼロになっていておかしくないしね。

その中で個人商店を含めれば異常な数の店舗がある市場であることを考えると、
市場規模が少なくとも3桁億あることは間違いがないし、
必需品ではないにせよ、多分嗜好品としては(少なくとも)十分なレベルにある。
(まぁそれでもフィギュアには十分負けてると思うけどね…)


また、海外も縮小してはいる(ディストリビューターが潰れたとかも聞くし)けど、
日本に比べると圧倒的なアナログ・リリースがある。
1つ1つのロットが小さめなので注目されないけど、
作品数で言うと年間50,000タイトルはある。
(適当な数字だけど無根拠ではないです)
少なく見積もっても、CDの国内リリースよりはあるんじゃないかな。

社団法人 日本レコード協会|各種統計


CDって輸入盤を含めて意外に音楽のリリースをカバーできてないっていう現実があって、
それをアナログレコードが補っているっていう事実があって。
効率的でない、重い、不便、そういうのはホントに日々思うけど、
実際問題レコードが無くなるってことは、そういう音楽を輸入できなくなるってことと
今のところほぼ同義で、もし今アナログレコードの輸入が無くなったら、
海外のリリースが全部データになるまで日本では空白になるってことなんで。

まぁもし、新譜レコード小売りが全部潰れて鎖国状態になったら、
Amazonなりそこであえて起業する人間の総取りになるだけなんで、
音楽側の供給が止まらない限り業界としては終わりようがないんだけど。

そのとき買う人がいるかどうかと言う問題はあるけど、
今でもマニアは海外から直接買ってるんでねぇ…文化として消え去ることはないような。

これはもう、一般には見えないマニアックな数字ではあるけれども、
文化的な話をするんであれば確実に思い至らなくちゃいけない数字だよね。
需給バランスがどうなってるんだ?ってことは。
一般的日本人が実生活上の「レコード」の存在感から考えるよりもずっと、
「レコード小売り」ってのは売り上げを持ってると思うよ。




上記のような意味で一連の話で「レコード終わったね」と書く人は、
雰囲気に流されてるだけで最初からそういう音楽は聴いてはないんで全然好きに書けばいいと思うし、
今さらもてはやされてバブル再びとかもあり得ない発想だし、

ただ事実の把握としては、縮小していくレコード文化を認めつつも、
多くの日本人の中ではもう20年くらい前にとっくに終わっていたんだから今さら感溢れるし、
シスコの件はそれとは無関係に勝手にヘタこいて潰れた、ってことなんだと思う。




…もちろん、そういう文化的な話と、
自分の明日の飯のタネとはこれまた別問題で、
頑張っていかなあかんな、と思ってるんですけれどもね。ええ。




■ 参考リンク

CISCO RECORDS

国内アナログレコード小売り大手のCISCO RECORDSが倒産か。(notrax) - Yahoo!ニュース
「シスコ」レコード自己破産申請(産経新聞) - Yahoo!ニュース

CUT UP RADIO: CISCO RECORDS